2018/02/17

npfdグループの研究内容


 ナノ粒子機能設計グループはナノ粒子・ナノ構造をベースに、人が扱うスケールまでを一貫して設計し、構築する「ナノシステム」による、環境・エネルギー問題の解決への貢献を目指して います。特に、プルシアンブルーをはじめとする、多孔性配位高分子の構造を制御、それぞれの用途に対して最適化することで、アンモニアや放射性セシウムの吸着剤、色変化素子などの研究開発を進めています。

1. 多孔性配位高分子のマルチスケール構造制御
  様々な開発の基盤となるのが、材料設計です。私たちは、原子スケールの構造制御により発現する材料の持つ「真の力」を、人間が「メートルスケール」で活用できるように、ナノメートル、マイクロメートル、ミリメートル、メートルという様々なスケールで材料・部材・素子・装置を設計、開発していきます。

マルチスケール構造制御による実用化:放射性セシウム除染の例


私たちが主として利用する多孔性配位高分子は、金属を分子で架橋した結晶を持ち、その多孔質性が特徴です。例えば、研究の中心であるプルシアンブルー型錯体は、ジャングルジム構造を持ち、小さなイオンや分子を取り込むことができ、吸着剤や、電気化学電極などへの応用を進めています。また、金属種を変えることや、欠陥を導入することで、機能設計が可能であり、それぞれの用途ごとに材料を最適化し、使用しています。

結晶構造制御による用途ごとの最適化例。放射性セシウム吸着剤と、アンモニア吸着剤は、基本構造はどちらもプルシアンブルー型錯体であるが、使用する金属、欠陥導入量が異なる。

材料のナノ粒子化も、重要な構造設計のうちの一つです。ナノ粒子化により、各種溶媒に分散させ、インク化したり、そのインクを塗布・印刷することで薄膜やパターニングが可能になります。また、ナノ粒子化により、他の材料とのナノメートルスケールでの複合化も簡単になり、さらにはナノメートルスケールでの空間設計が可能になります。原子スケールでの機能デザインと、メートルスケールでの実用化をつなぐためには、精密なナノ粒子を大量に作る必要があります。そのため、私たちは主にフロー合成法を用い、粒子を作ります。プルシアンブルー型錯体はナノ粒子が作りやすい物質なので、単に材料を混ぜるだけである程度のナノ粒子はできますが、どうしても組成やサイズにばらつきが出ます。そのような物性にばらつきがあると、正確な最適化条件を出すことが難しいため、ナノ粒子の精密制御に力を入れています。
この方法を用いると、例えば大きさが10nm以下のプルシアンブルーナノ粒子を、600g/時の速度で合成することができます。これは、色変化素子年産100m2分に必要な量に相当します。

バッチ合成したプルシアンブルー(左図)と、フロー合成したナノ粒子(右図)の比較


マイクロミキサーを用いたナノ粒子の製造風景


主な成果
  • Efficient synthesis of size-controlled open-framework nanoparticles fabricated with a micro-mixer: route to the improvement of Cs adsorption performance, Akira Takahashi, Tohru Kawamoto et al., Green Chemistry, 2015, 17, pp4228-4233. (04/06/2015), DOI:0.1039/C5GC00757G

2.大気中の希薄ガス吸着
 大気中には、窒素、酸素以外にも、様々な分子が含まれており、それが悪影響を及ぼすことがあります。例えばアンモニアは悪臭の原因でもあり、また腐食性のため、半導体工場で不良品の原因になったり、美術品を劣化させたりします。私たちは、特に、再生可能な多孔質アンモニア吸着剤として、最も吸着量の高いものを開発しました。この吸着剤は、0.01ppmという、極めて低濃度のアンモニアも吸着し、除去することができます。
高性能アンモニア吸着剤とその結晶構造

 現在は、養豚畜舎で糞尿から発生するアンモニアなどの悪臭物質を除去し、換気なしで畜舎内の空気を清浄化、温度も適切に管理することで、生産効率を高める取り組みを進めています。


    主な成果
    • Historical pigment exhibiting ammonia capture beyond standard adsorbents with adsorption sites of two kindsAkira Takahashi, & Tohru Kawamoto, et al.,  Journal of the American Chemical Society2016, 138(20), pp6376-6379.  (05/05/2016), doi.org/10.1021/jacs.6b02721
    • プレス発表:青色顔料が高性能アンモニア吸着材であることを発見 (2016/05/10) 概要 詳細(産総研HP)


     2.水中のイオン吸着
      水の中には、様々なイオンが含まれています。重金属は深刻な水質汚濁の原因物質ですし、アンモニウムイオンなどの窒素化合物は富栄養化などの原因になります。私たちは、放射性セシウム、アンモニウム、ヒ素酸などの吸着剤を開発しています。放射性セシウムは、特に福島第一原発事故後の除染に対応するために開発しました。吸着剤だけでなく、その活用法まで開発することで、実際に利用が可能な技術を開発しています。具体的には、焼却灰の除染や、ため池の放射性セシウム除去技術を開発しました。ため池対策は、農水省のマニュアルにも記載されています。

    焼却灰除染法の概要
    実際のため池での実証試験に用いた吸着カラム。1時間当たり5m3の水を処理できる。

     また、放射性セシウム吸着剤は川や海などの微量な放射性セシウム濃度の測定にも活用されています。非常に希薄な放射性セシウムを吸着剤で濃縮することで、測定できるようにするのです。
    放射性セシウム吸着剤の結晶構造と、海水中の放射性セシウムを回収するためのカートリッジ。このカートリッジ中の放射性セシウム濃度を測定し、元の海水中の濃度を知ることができる。

      アンモニウムイオン吸着剤は、汚水からアンモニウムイオンを排水から除去するだけでなく、得られたアンモニウムイオンを再利用できるてんが、従来技術である硝化・脱窒と異なる点です。

    主な成果
    • Application of Prussian blue nanoparticles for the radioactive Cs decontamination in Fukushima region, Durga Parajuli, and Tohru Kawamoto et al., Journal of environmental radioactivity, 2016, 151(1), pp233-237, . (30/10/2015), DOI:10.1016/j.jenvrad.2015.10.014
    • Comparative study of the factors associated with the application of metal hexacyanoferrates for environmental Cs decontamination, Durga Parajuli, and Tohru Kawamoto et al., Chemical Engineering Journal, 2016, 283(1), pp1322-1328. (28/08/2015), DOI:10.1016/j.cej.2015.08.076
    • Radiocesium removal system for environmental water and drainage, Kimitaka Minami, and Tohru Kawamoto, et al., Water Research, 2016, 107(15), pp29-36. 18/10/2016), DOI:10.1016/j.watres.2016.10.043
    • プレス発表:植物系放射性セシウム汚染物の焼却灰を除染する技術を実証(2013/11/20) 詳細(産総研HP)

    4.電気化学電極と色変化素子
     イオンを出し入れできる材料の用途として、電気化学電極があります。例えば、二次電池は、電極材料に、イオンと電子を取り込むことで電気を貯め、放出することで電気を発生させます。この反応を酸化還元反応といいます。酸化還元反応により、色が変わるエレクトロクロミズム現象を利用し、電気的に色の変わる素子を作っています。これらは、色の変わるガラスや、表示素子への応用が期待されます。ナノ粒子インクを利用することで、塗布・印刷により素子を作成することができ、製造コストを下げることも期待されます。
    ナノ粒子インクの塗布で作製した1000個の色の変わるガラスからなるオブジェ
    Journal of Materials Chemistry Cの表紙に採用されました
    色変化素子の動作
    主な成果
    • Cobalt hexacyanoferrate nanoparticles for wet-processed brown–bleached electrochromic devices with hybridization of high-spin/low-spin phases, Elghool Kholoud, Tohru Kawamoto,  et al., Journal of Materials Chemistry C2017, 5, pp8921-8926(16/07/2017), DOI:10.1039/C7TC02576A
    • Accelerated coloration of electrochromic device with the counter electrode of nanoparticulate Prussian blue-type complexes, Kyoung-Moo Lee, Tohru Kawamoto, et al., Electrochimica Acta, 2015, 163(1), pp288-295. (16/02/2015), DOI:10.1016/j.electacta.2015.02.119.